「何もない場所」だからこそ広がる大きな可能性と
腕一本で食べていくという職人としての決意

蒲生貴之さん(28)
 職業:リペア業
出身地:函館
現住所:函館
 函館→東京→名古屋→函館

 
 技術で仕事をする〝職人〟に憧れ、『お直し屋』という職業に辿り着いた蒲生貴之さん。函館を出てから、東京、ロンドン、名古屋と様々な土地を渡り歩き、2014年の夏に地元へ帰ってきました。現在は自身が開業したお直し屋で洋服のリペアに取り組む傍ら、DJとして自主イベントを運営。2015年には待望の第一子も産まれ、家族3人で函館生活を満喫しています。そんな蒲生さんに〝これまで〟と〝これから〟のお話を伺いました。

 
 
 
 
取材・文章:阿部 光平、撮影:妹尾 佳、イラスト:阿部 麻美 公開日:2015年5月20日
 

 
 

 
 
 
 
 
 

東京で身につけたリペア職人とDJという二足のわらじ 

 

 
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蒲生:それはかなりありますね。出演するDJやお客さんを含めて、函館は保守的な人が多いのかなと感じます。お酒を飲まない人が多いことに驚きました。
あとは、そもそもクラブという場の位置付けが違うのかなと。東京では「何のイベントに行こう」というよりも「どこのクラブに行こう」という遊び方が多かったように思います。要するに、各クラブに独自の色があったので、どんなイベントかわからなくても、そこに行けば面白いことをやっているという安心感と気軽さがあったんです。飲んだ延長で、ふらっと遊びに行けるというか。
函館のクラブにはそういった特色がありませんね。クラブの全体数が少ないから、いろんなイベントが入り混じるのは仕方ないと思うんですが。イベント自体も少なくて、週末とかにしかなかったりするので、前もって調べておかないと自分好みなイベントには出会えません。

━━なるほど。お酒を飲む人が少ないというのは、車社会だというのがひとつの要因かもしれませんね。東京だと終電も遅くまであるし、始発も早いので。クラブ遊びに限らず、函館に帰ってきてから飲みに出歩く機会は減りましたか?
蒲生:アイリッシュパブで働いてるので、仕事終わりにお客さんと飲みに行くことはありますが、東京にいた頃と比べると格段に減りました。

━━それはやはり交通の便がネックになっているのでしょうか?
蒲生:僕が住んでるのは五稜郭なので、そういった面は気にならないんですけど、交通の便がネックで一緒に行ける人が少ないというのはありますね。バスや電車が終わるのも早いし、代行で帰るとなると出費もかさむので、気軽には誘えないというか。

━━その辺りはやはり、東京にはあって、函館にはない部分ですね。交通の便以外で、函館に帰ってきてから不満に感じるところはありますか?
蒲生:不満とは少し違いますが、東京との違いで感じるのは「函館の人は前例がないことに対するアレルギーが強い」ということですね。少しでも変わった提案をすると「そんなのは函館では通用しない」と頭ごなしに否定されることが多々あります。

━━先ほど、クラブに来る人たちが保守的だというお話がありましたが、それ以外の部分でも保守的な考え方が強いということですかね?
蒲生:そうですね。例えば、お直し屋をやりながら、アイリッシュパブでアルバイトしていることは、自分としては合理的だと思っているんです。10年近く地元を離れていたので、人との繋がりが少ないんですが、飲み屋で働くことは人脈を広げるために有効だし、結果的にはお直しの仕事にも繋がっていくだろうと。だけど、そんな話をすると「そんな中途半端じゃいけないよ」とかって言われます。
東京だと、何か新しいことを始めたいと話すと「いいね!」「おもしろそうじゃん!」と前向きに捉えてくれる人が多いじゃないですか。実際に協力してくれるかという部分は別としても、気分を盛り上げてくれるという意味で、意欲も湧きますし。

━━そういった意味では、東京の方が新しいことを始めやすい環境と言えるのかもしれませんね。反対に、東京にはないけど、函館にはあると感じるものはありますか?
蒲生:ちょっと矛盾になるかもしれないですけど、「何もないということ」ですかね。何もないからこそ、何かを始めやすいという部分もあると感じます。東京は何を始めるにも激戦だけど、函館には手つかずのフロンティアがけっこうたくさん残っているというか。

━━前例がない分、やりにくい部分もあるけど、逆にチャンスも広がってるということですね。では、次に〝東京〟と〝函館〟の違いではなく、〝10年前の函館〟と〝今の函館〟の違いについて、何かあれば教えて下さい。
蒲生:街を歩いている人が減りましたよね、明らかに。特に夜の五稜郭は、活気がなくて寂しく感じます。以前は帰省する度に、街で誰かとすれ違ったけど、今は誰とも会わないですね。

━━最近、色々なところで〝地方移住〟という話題が挙がっていますが、実際に東京から函館に移り住んだ実感はいかがですか?
蒲生:函館に引っ越すことに関して、東京の友達からは「せっかく東京で頑張ってるのに、もったいないよ」という意見もあったんですが、僕としては「何もない」函館で何かを始めるということはステップアップだと感じています。後ろ向きな気持ちはひとつもなくて、次のステージに上がったという感じなので、今は人生が順調に進んでると思ってます。

━━函館での活動がステップアップになるというのは、とても希望のある言葉ですね。移住で悩んでいる人に、何か伝えたいことなどはありますか?
蒲生:思ってるよりも生活は楽になるんじゃないかなと思います。東京のように忙しい中で生活してる人たちにとっては特に。僕個人としては、ストレスも減りました。確かに景気は良くないけど、心は豊かになるのではないかなと。
あとは子育てもしやすいと思います。待機児童の問題なんかもないですしね。こういう環境で育った身としては、東京で子どもがひとりで電車に乗ってる姿とかも、見ていて辛かったので。

━━子どもがいると、今まで以上に心の余裕というのが大切になりますからね。では最後に、これからの人生設計を聞かせてください。
蒲生:仕事の面では、お直し屋をもっと大きくしていきたいです。ゆくゆくは人も雇いたいですし、函館を拠点として他の都市に店を出したいなとも考えています。
趣味であるDJに関しては、東京で自分が作ってきた繋がりで、もっと素晴らしいアーティストを呼んできて、素晴らしいバンドやDJを函館のみんなに見せてあげたいなと思っています。自分が感じてきた最高に楽しいことを、地元のみんなと共有したいというのが、今の大きな目標ですね。










(※1)HOME
東京都渋谷区にあるクラブ。アコースティックのライブから、オールナイトのクラブイベントまで、日夜様々なイベントが行われている。


(※2)DJ SCRATCHY
ザ・クラッシュのワールドツアーに同行していたことで知られるイギリス出身のDJ。パンクのイベントで初めてレゲェを取り入れたDJとされる。


(※3)ジャポニクス
東京を拠点に全世界で活動している音楽プロダクション。CUMBIA、ROCK LATINO、PACHANGAなど、彼らが初めて日本に紹介した音楽も多い。
 

 
 
 

 

 

MY FAVORITE SPOT

 
ともえ大橋からの景色
 「車からの函館に向かってる時の景色が気に入ってます。」
 
  おさむ屋

「『かしらや』という焼き鳥屋から独立したお店で、ガツ刺しが絶品。ポン酢で食べると最高。」

 
PALM WINE STORE

「中学校の先輩が経営しているアンティークショップ。当時からの憧れで、今でもカッコ良いものだけを見せてくれます。」