漫画家という夢を隠し続けた青春時代
17歳でデビューしてからの苦悩と決意

敦森蘭 さん(29)
 職業:漫画家
出身地:函館
現住所:東京
 函館→東京

 
 
〝恥ずかしさやプライドが邪魔して、自分の夢を素直に語れない〟。そんな経験、誰もが少なからず身に覚えがあるのではないでしょうか。他人の目が過度に気になる思春期ならば尚のことです。幼い頃から漫画が好きで、将来は漫画家になりたいと思っていた敦森蘭さんも、当時は自分の夢を他人に語ることができなかったと言います。17歳で漫画家デビューし、紆余曲折を経ながらも、今は真っ直ぐ漫画に打ち込む彼女に、これまでの葛藤や今後の夢を語っていただきました。


 

取材・文章・撮影:阿部 光平、イラスト:阿部 麻美 公開日:2015年7月15日

 
 

 
 
 
 
  

「函館は今、盛り上がっている気がする」
 

━━では、再び話を函館に戻したいと思います。今、函館に帰省するペースはどれくらいですか?
敦森:2、3年に一回で、長くても4泊くらいですね。

━━函館を出たのが21歳の時で、それから7年。当時と比べて、函館には何か変化を感じますか?
敦森:東京で暮らし始めてから改めて見ると、本当に何もないなと感じます。お店とか。久々に帰ると最初は寂しい気持になりますね。私、車の免許がないからどこにも行けないし、バスとかは8時には終わっちゃうし。
でも今年の6月に帰った時は、ちょっと印象が違いました。

━━といいますと?
敦森:函館が盛り上がってきている気がします。特に桔梗とか5号船沿い辺りが。蔦屋書店とか、以前はなかったお店がたくさんできたりして。
あとは人ですかね。私のまわりでも、面白い人が函館に帰ったりしてて、楽しい企画やイベントが増えているので、街全体がまただんだん良くなってきている印象がありますね。

━━そうした実感がある中で、函館に帰ろうというヴィジョンはありますか?
敦森:帰りたいという気持ちはあります。ただし、漫画家としてのポジションを確立してないと難しいかなと。売れっ子の作家さんとかだと海外で書いている方もいるし、作業的にはどこでもできるんですが、名前で仕事ができるようになるまでは東京で頑張らないといけないですね。

━━函館が魅力的だと感じるポイントはどの辺りでしょう?
敦森:ひとつは人との繋がり方ですね。それは東京よりも函館の方が濃いと感じます。函館は小さな町だから、「この子、漫画を描いてるんだよ」という感じで人が人を繋げてくれるんですよね。

━━そういったシチュエーションというのは、東京の方がよりたくさんあるような気がするんですが?
敦森:東京は広いから、逆にコミュニティが限られてくる感じがします。似たり寄ったりなコミュニティいくつかあるだけで、全体的には広がっていかないというか。
函館の方がいろんな業種の人とかに会えて面白いですね。一度、外に出てから戻って来てる人も多くて、そういう人は市内だけじゃなく、それこそ全国にネットワークを持っているから、閉鎖的な感じもしません。

━━なるほど。確かに東京ではコミュニティが限られてくるというのはあるかもしれませんね。
敦森:もうひとつ魅力だと思うのは時間の流れですね。東京はせわしなくて、情報量がとても多いので、作家同士で話すときとかでも、知っておかなければいけない情報みたいなのがあって。ツイッターとかで情報収集してから会話しなきゃいけないような雰囲気があります。
それに対して函館は時間もゆっくり流れているし、人も大らかだなと思います。この前、帰っていた時に、1日中まったくケータイを見てないことに気づいたんですよね。制作の場としては、こうやって心にゆとりが持てる環境の方がいいなと感じます。

━━作品をつくる環境としては、やはり静かで落ち着いているというのは魅力的ですよね。ただ、やはりそういう環境だとインプットの部分で物足りなさを感じることもあるかと思います。東京にはあって、函館にはないなと感じるモノやコトはありますか?
敦森:美術展とか音楽系のイベントとかですかね。結局、有名なアーティストの展示や公演は東京で行われるし、函館には全然来てくれないじゃないですか。その辺りは、やっぱり東京には敵わないなと感じます。
ただ、美術展にしろ、音楽にしろ、東京で暮らしているといつでもいける感じがしちゃって、逆に行かなくなるという側面もあります。函館に住んでたら絶対に行くだろうイベントでも、こっちだとまた今度行けるやって感じになっちゃって行かないとか。まぁ、自分の問題なんですけど。

━━ありがたさが失われると見ている時の集中力も違ってきちゃいますよね。最後に、自分の人生の選択として東京に出てきたのはよかったと思っていますか?
敦森:離れて一層函館の良さがわかったという意味でも、東京に出てきてよかったです。いつか心が落ち着く環境で漫画を描く生活ができるよう、今は東京で頑張ります。










(※1)ふしぎ遊戯
渡瀬悠宇による少女漫画。古代中国の四神などを題材にしたファンタジー作品で、1995年からはテレビアニメも放送された。


(※2)BASARA
田村由美による少女漫画。文明崩壊後の日本を舞台にした少年漫画的な題材の架空戦記作品でありながら、ラブストーリーとしての要素も持ち合わせていた。


(※3)渡瀬悠宇
大阪府岸和田市出身の漫画家。少女漫画雑誌の他に、少年誌や青年誌でも執筆。代表作に『ふしぎ遊戯』や『絶対彼氏』などがある。


(※4)コミケ
コミックマーケットの略。同人誌を販売するイベントで、毎年8月と12月に東京ビックサイトで行われるイベントの来場者は50万人を超える。


(※5)アンソロジー本
複数の短編や読み切り作品を掲載した本。コミックアラカルトと呼ばれることもある。


(※6)別冊マーガレット
集英社が発行する少女漫画雑誌。中高生を読者層にした雑誌で、現在は実写映画化された『君に届け』や『俺物語!!』などが連載されている。


(※7)浅野いにお
茨城県石岡市出身の漫画家。1998年に『菊池それはちょっとやりすぎだ!!』でデビュー。『ソラニン』や『おやすみプンプン』が代表作として知られている。


(※8)モーニング
講談社発行の青年漫画誌。『バガボンド』や『宇宙兄弟』、『クッキングパパ』などジャンルに囚われない作品を掲載し、数多くのヒット作を生んでいる。


(※9)斉藤倫
愛知県豊橋市出身の漫画家。現在は、集英社の『Cookie』で『路地裏しっぽ診療所』を連載中。

 

MY FAVORITE SPOT

 
base 

「千代台にあるCAFE&BAR。約束とかしてなくても、行くとだいたい友達がいるお店です。お酒が美味しいし、ご飯(特にグリーンカレー)も美味しいし、シゲ(犬)が超かわいい!」

 
裏夜景
「高校が陵北だったので、よく寝そべって裏夜景や星空を見ていました。その頃の気持ちを思い出せるというか、初心にかえれる場所ですね。」
 
港まつりのイカ踊り 
「昔、葬儀屋さんでアルバイトしてたことがあって、そこのチームでパレードに参加しました。あれって一応コンテストになってるんですけど、なんと1位を獲得! 大門から五稜郭まで踊り切りました。」